生前贈与で相続税対策(その②)
前回は、暦年課税による贈与について説明しました。
今回は、もう一つの贈与の方法である「相続時精算課税による贈与」について取り上げます。
相続時精算課税とは?
相続時精算課税とは、年間110万円(基礎控除)までの贈与なら贈与税も相続税も非課税となり、年間110万円を超える部分は累計2,500万円(特別控除)まで贈与税が非課税になる贈与の方法です。
少しわかりにくいので、簡単な例を使って説明します。
父から子に相続時精算課税で贈与するケース
・2024年 父Aは子Bに時価2,610万円相当の自社株式を相続時精算課税で贈与した。
・2025年 父Aは子Bに現金110万円を相続時精算課税で贈与した。
・2026年 父Aが亡くなった。
2024年の自社株式の贈与について
2,610万円の贈与のうち110万までの部分は、贈与税も相続税も非課税になります。
また、110万円を超える部分については、累計で2,500万円まで特別控除の対象となり、贈与税が非課税になります。
このケースの場合、110万円を超える部分はちょうど2,500万円(2,610万円-110万円)なので、2,500万円全額が特別控除の対象となります。
したがって、贈与税は1円もかかりません。
2025年の現金の贈与について
110万までの贈与なので贈与税も相続税も非課税になります。
したがって、贈与税は1円もかかりません。
2026年の相続について
父Aが亡くなったことにより、特別控除の対象となった2,500万円は、子Bの相続財産に加算されます。
つまり、贈与をした時に贈与税はかかりませんでしたが、相続の時に相続税計算の対象となってしまうということです。
なお、「2024年の自社株式の贈与のうち110万円までの部分」と「2025年の現金贈与110万円」は、いずれも基礎控除の範囲内であるため相続財産に加算されません。
したがって、年間110万円(基礎控除)までの贈与であれば、贈与税も相続税もかからないため、非常に有効な節税対策となります。
また、特別控除の対象となった2,500万円は、相続税計算の対象になってしまいますが、贈与時に贈与税の負担なしで子に自社株式を移転できているため、事業承継の手段として有効な方法といえます。
相続時精算課税の適用要件
相続時精算課税で贈与をするには、主に次の要件を満たす必要があります。
① 贈与者(あげる人)は60歳以上、受贈者(もらう人)は18歳以上であること
② 贈与者は父母または祖父母、受贈者は子または孫であること
③ 相続時精算課税選択届出書を税務署に提出すること
なお、一度相続時精算課税を選択すると、暦年贈与には戻れなくなります。
したがって、暦年課税と相続時精算課税のどちらを選択すべきか、しっかりとシミュレーションを行っておく必要があります。
次回は、「暦年課税」と「相続時精算課税」のどちらで贈与すべきかについて検討します。